便秘
大腸は、小腸までの消化管で吸収され残した栄養分や電解質を吸収するとともに、水分も吸収して、適度の水分を残した、排便しやすい便を作る役割を果たしています。作られた便は、大腸の出口の直腸部分に一時溜められて、その後、肛門から排泄されます。直腸の出口付近には、2種類の括約筋があって、便が直腸に一定量溜まったら便意をおこし、それを我慢する働きをしています。
こうして、人間が摂取した食べ物は、通常口から入ってから24時間から72時間程度をかけて栄養や電解質をしっかりと人体に取り込んだ残渣を便として出すシステムができあがっています。
ところが、腸は「第二の脳」と言われるほど脳と密接な関係にあって、神経も集中しているため、少しのバランスの変化などがおこると敏感にそれを感じ取り排便リズムが狂ってしまうことがあります。
こうした排便の異常には、「便秘」と「排便困難」の2通りのパターンがあります。便秘は、大腸の運動機能が低下する、炎症やポリープ、がんなどによって通り道が狭くなってしまっていて、腸内の滞留時間が長くなり、水分が吸収されすぎたため便が硬くなり排泄されにくくなっている状況です。
それに対し排便困難は、便が直腸に入って、一定量溜まってもセンサーがうまく働かず、便意を催さないというタイプです。
この2つをあわせて、一般的には便秘と言っています。
便秘と排便困難による体への影響
便秘や排便困難を気にして、長時間トイレでいきんでしまうことによって、肛門周囲には不要な圧力がかかってしまいます。すると、肛門括約筋の下でクッションの役割をしている静脈叢がダメージを受けてしまい、痔核(いぼ痔)ができる原因になってしまいます。
さらにいきみによって血圧が上昇、頭痛などがおこったり、不眠になったりすることもあります。それによってさらに集中力が低下するなどの症状もおこります。
また、直腸内に溜まった便を十分に排泄できず、排便に関する満足感が十分に得られない状態が続いていると、徐々に便意を感じなくなって、慢性的な便秘をひきおこすことにもなります。
治療
便秘・排便困難に対するはっきりとした治療法は確立されていません。そのため人それぞれの症状にあわせて、様々な治療法を組み合わせて対症療法的な治療を行います。
治療は、生活習慣の改善と薬物療法の両面から行います。
生活習慣の改善
適度な運動と水分摂取
身に合わない過度な運動ではなく、自分に適した全身運動をゆったりと行うことで、消化管の血流が促進され、腸の動きが活発になります。特にウォーキングなど、無理なくできる運動を心がけましょう。また、水分が不足することで、便は硬くなりやすいため、適度に水分を補給しましょう。
十分な食事
無理なダイエットなどで食事の摂取量が減ると、結果として便の量が減ってしまいます。それによって便秘がおこります。食物繊維の多い、野菜類や海藻、きのこなどの食物を多めに摂取することで便量が増えます。ただし、食物繊維は摂りすぎると大腸内で発酵することによって過敏性腸症候群の元になることもありますので、食べ過ぎも避けるようにしましょう。
規則正しい生活
便意や肛門括約筋の動きは自律神経と大きく関連しています。生活の乱れは自律神経の乱れを招きますので、規則正しい生活を心がけるようにしましょう。また、たとえ便意を感じていなくても、毎日決まった時刻にトイレで排便を試みることなども、生活のリズムを取り戻すためのきっかけとなります。
腹部のマッサージと温熱
大腸は大きく反時計回りにお腹をとりまくように存在しています。そのため腹部を「の」の字を描くように、ゆっくりとマッサージすることが、腸の活動を促します。また冷えは腸の活動を低下させ便秘の原因ともなりますので、お腹を温めることも有効です。
ストレスの緩和
ストレスや過労などは自律神経に大きく影響を与えてしまいます。それによって過敏になれば下痢をおこし、消化管の動きが鈍くなれば便秘の原因ともなります。ストレスや不安を緩和していくことは、腸活にとっても大切なことです。
薬物療法
薬物療法としては、近年新しい作用メカニズムの緩下剤などが開発されており、対症療法的に症状を改善することができるようになっています。こうした西洋医学的なアプローチだけではなく、東洋医学では、老廃物の排泄も含めた、身体全体の「巡り」を大切に考える部分があります。こうした考え方は、便秘というリズムの乱れの修整には適している部分が大きく、当院では、患者様の「証」に適した漢方薬を処方することもあります。
排泄ということで、恥ずかしがってなかなか受診されない方もいますが、快適な排便は生活の質(QOL)を大きく向上させます。困ったことがありましたら、お気軽にご相談ください。