潰瘍性大腸炎
大腸に慢性的な炎症がおこり、潰瘍などが生じます。最初は直腸に発症することが多いのですが、だんだん小腸方向に向かって、大腸全体に拡がります。症状としては下痢などが代表的なもので、出血を伴う場合もあります。症状はクローン病と似ていますが、大腸に限定されているところが異なります。また、はっきりとあらわれる活動期(再燃期)と、症状が落ち着いている寛解期をくりかえすことが特徴です。
原因ははっきりとわかっておらず、発症のメカニズムも解明できていない部分が多いため、根治療法はありません。そのため厚生労働省による難病指定となっています。
しかしながら、近年の研究によって、活動期(再燃期)の症状を落ち着かせる治療を行い、できる限り寛解期の状態を長く続けることが可能になっており、発症前の日常生活を取り戻すことも可能です。
25~30歳ぐらいの若年層に多い疾患ですが、だんだん高齢層の罹患も増えてきており、日本は患者数では米国についで、世界で2番目に多く、まだまだ増えてきているような現状となっています。
難病指定が得られた場合、医療費助成制度を利用して、医療費の負担を減らすことが可能です。
原因
この病気の原因は、はっきりとは分かっていません。ただし、免疫システムの何らかの異常が発症に大きくかかわり、それに加えて、遺伝的要素、食生活、服用している薬などが要因となっていることも分かってきました。こうした遺伝的、環境的な因子のなかでも、近年注目されているのは、衛生環境の変化や腸内フローラ構成の変化との関係性です。
症状
炎症が続くことによる、腹痛、下痢があり、ゼリー状の粘液に混じった粘血便は特徴的な症状の一つです。また、炎症が進行してくると、体重が急激に減ったり、貧血症状をおこしたりすることもあります。ただし、これらの症状は、感染性腸炎やクローン病でもおこることがあります。クローン病は腸に発症した場合、似たような経過となり、感染性腸炎もときに激しい症状を呈しますので、これらの症状が出た場合はできるだけ早く消化器内科を受診してください。
検査・診断
問診に加えて、症状にあわせた詳細な検査を行いますが、確定診断には大腸カメラによる内視鏡検査が必須となります。
まず問診で、どのような症状が、いつ頃からおこって、どのような経過をたどっているか、どんなことをきっかけに発症するかなどの他、既往症や現在服用中のお薬などについても詳しくお訊ねします。
検査では、血液検査、検便検査、腹部X線検査、大腸カメラ検査などを症状にあわせて行います。大腸カメラ検査では、潰瘍性大腸炎に特有の腸内の病変が目視で確認でき、さらに炎症がどの範囲におよんでいるかも把握できます。また疑わしい組織を採取し病理検査を行うことも可能です。
診断基準
潰瘍性大腸炎の特徴は、ゼリー状の粘液に血液が混ざる粘血便です。さらに下痢、下腹部痛などの症状とその経緯などから判断します。また大腸カメラ検査によって、炎症の程度とその範囲が確認でき、また採取した組織の特徴的な所見で病理学的に確定できます。そのためこの大腸カメラ検査は特に重要になります。
似たような症状を呈することがある、感染性大腸炎やクローン病の可能性を排除できたら、潰瘍性大腸炎と診断できます。
潰瘍性大腸炎の治療法
潰瘍性大腸炎は、原因や発症のメカニズムがよく分かっていませんので、根治療法は現在のところありません。そのため、活動期(再燃期)の症状をできるだけ早く治めて、症状の出ない寛解期の状態に導くことが第一の目的となります。この時の治療を「寛解導入療法」と言います。寛解導入が成功すれば、その状態をできるだけ長く続けて、日常生活を発病前のレベルで送ることができるようにすることを目的とします。この時期の治療が「維持療法」です。
寛解期に治療を怠ってしまうと、また悪化して、再燃期に入るという繰り返しになります。そのため、根気よく治療を続けて行くことが大切です。
治療は主に薬物療法によりますが、状態によっては、手術による治療を検討することもあります。
薬物療法では、炎症を抑える効果を発揮する5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤)を寛解導入期、維持期を通して服用します。活動期(再燃期)で強い炎症が見られる場合は、限定的に短期間ステロイド薬を服用し、すばやく炎症を鎮めるようにします。また状態によって、自己免疫の異常な活動を治める免疫調整剤や炎症をおこしている物質を限定的に攻撃する抗体製剤などの導入、透析のように血液を体外で濾過し、血中の白血球成分を除去して、自己免疫の症状を治める血球除去療法などを行うこともあります。これらの治療で効果が得られない場合や、劇症になっているケースなどでは手術を検討することもあります。 潰瘍性大腸炎は、根治が難しいため、難病に指定されています。しかし、近年の治療では、活動期をしっかりと抑え込んで、寛解期を続けることが可能になっており、以前の日常活動を続けられるようになった患者様も多数存在します。
難病医療費助成制度について
潰瘍性大腸炎は厚生労働省によって難病指定された疾患で、医療費助成制度が利用できる可能性があります。国の定めた基準に従って、重症度分類を行い、認定基準を満たしていれば、自己負担分の減額や、治療費上限設定などによって経済的負担を低減することができます。必ずしも重症者だけが認定されるわけではなく、軽症者でも長期間の療養が必要と認定されることによって、軽症者対象の助成が受けられることがあります。
難病医療費助成制度と重症度分類
重症度分類は、医療費助成の対象であるかどうかを確認するための指標です。一日の排便回数、粘血便など血液の混じった便が出るかどうか、発熱、頻脈、貧血の程度、体内に炎症がおこっていることを確認するために赤血球の沈下速度を血液検査で調べる赤沈の6項目に分類されます。各項目には細かい数値などが規定されており、それによって重症・中等症・軽症という3段階に分けて判断します。また重症のうちでも症状が重篤な場合は劇症と分類されます。
この重症度分類で重症または中等症に相当する場合は、難病医療費助成の対象となります。また、軽症の場合でも、長期間の治療が必要と認められれば助成を受けられる場合もあります。 詳細については、現在お住まいの都道府県の相談窓口にお問い合わせください。保健所などが相談窓口に該当します。
クローン病
症状が潰瘍性大腸炎と良くにており、炎症性腸疾患(IBD)として同一ジャンルにくくられています。しかし、潰瘍性大腸炎が大腸のみに症状があらわれるのに対して、クローン病では口から肛門までの消化管全体に炎症をおこすことが大きな違いです。
しかし、炎症は、小腸と大腸の接合部の小腸側である回腸と大腸に好発します。どこに炎症がおこるかによって、小腸型、大腸型、小腸・大腸型と分けられています。
クローン病も、活動期(再燃期)と寛解期を繰り返す疾患ですが、原因ははっきりと解明されておらず、治療も難しいため、クローン病も厚生労働省によって難病指定されています。
発症は若い世代で、男女で若干の差はありますが、10代中盤から20代中盤までがピークで、男女比では2:1と圧倒的に男性が多いことがわかっています。
治療法としては、潰瘍性大腸炎より、食物に制限があり、また栄養療法が必要になることも多いため、潰瘍性大腸炎や感染性大腸炎などと、しっかりと鑑別する必要があります。
原因
いまのところ、はっきりとした原因はわかっていません。しかし、近年の研究によって、遺伝子に異常がおこり免疫システムが正常に働かなくなることが発症の要因となることが分かってきました。また、食べ物や飲み物、異物の侵入のほか、病原体の関与なども影響しているとの報告があります。
症状
クローン病は、患者様それぞれによってあらわれる症状が異なります。また炎症をおこす場所によっても、小腸型、大腸型、小腸・大腸型などと異なっています。
その中で特徴的なのは、下痢と腹痛です。また、発熱や下血がみられたり、腹部に腫瘤ができたりすることもあり、さらに全身の倦怠感や貧血などがみられることもあります。
炎症は、潰瘍性大腸炎と比べると腸壁の深くまで及ぶことがあり、その場合、腸閉塞や潰瘍によって臓器に小さな穴が空いてしまう瘻孔(ろうこう)や穿孔などの重大な症状がおこることもあります。
そのため、活動期(再燃期)、寛解期にかかわらず受診して、しっかりと経過観察を続けて、できるだけ活動期に入らないようにしていくことが大切です。
検査・診断
感染性大腸炎や潰瘍性大腸炎と似たような症状がおこることが多いため、しっかりとそれらの疾患と鑑別する必要があります。
そのため、まずは問診で食事、海外渡航の有無、家族歴、普段飲んでいるお薬などについてお訊ねし、感染の有無や副作用などについて確認します。感染の疑いや薬による大腸炎の可能性がなければ、血液検査、大腸カメラ検査、腹部造影検査(小腸)、胃カメラなどの検査を行います。
特に大腸カメラ検査は、クローン病特有の病変を目視できることや、組織を採取して病理検査を行うことができる点で有効です。また、近年では、難しいとされていた小腸の内視鏡検査も可能になってきていますので、必要に応じて小腸内部も目視で確認することができます。
治療
クローン病を根治する治療法はいまのところ発見されていません。そのため、潰瘍性大腸炎と同様、活動期(再燃期)に症状を速やかに抑えて、症状のない寛解期に導く寛解導入療法と、寛解期にも引き続き治療を継続して、発症を抑える維持療法を行い、通常の社会生活を送ることが可能な寛解期をできるだけ長く続けることを目的に治療を行います。
クローン病の場合、特に特定の食品による悪化・発症例がありますので、食事療法では悪化の要因となる食品を避けます。しかし、必要な栄養素の主要供給源であることもあり、栄養が偏ったり不足したりしないよう、食事制限は最低限に止めます。また、活動期に食物による消化管への影響が強いときは、経腸栄養を行うこともあります。
クローン病は炎症が深くまで侵襲することが多いため、直腸から発症した場合、痔ろうを繰り返すなどの症状がでることがあり、痔の治療に訪れてクローン病が発覚することもあります。
そのため、活動期(再燃期)、寛解期を通して、潰瘍性大腸炎と同様、炎症を抑える効果を発揮する5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤)を寛解導入期、維持期を通して服用します。活動期(再燃期)で強い炎症が見られる場合は、限定的に短期間ステロイド薬を服用し、すばやく炎症を鎮めるようにします。
これらの薬剤は症状のコントロールにかなり有効で、活動期をすばやく抑え込み、寛解期を長く維持して、状態が落ち着いてくれば、発病前と変わらない日常生活を送ることができるようになります。