肛門周囲膿瘍の原因として痔ろうがあります
肛門には、直腸と肛門の皮膚である肛門上皮とを隔てる歯状線という部分があります。その近くに肛門陰窩という小さなへこみのようなものがありますが、へこみは小さいため、通常便が入り込むようなことはありません。ところが下痢が続いたりすることで、柔らかい液体状の便が肛門陰窩に入り込み、なんらかの事情で感染症をおこすことで、患部に炎症がおこり、膿は出口を失って、肛門周囲の軟部組織へと入り込んでいきます。その膿が肛門周辺にたまると肛門周囲膿瘍という疾患を引き起こします。この膿瘍によって生じる膿が出口をもとめて、肛門周囲の中を細いトンネルを穿ちながら進行していきます。
肛門周囲膿瘍では、強く腫れ、時に高熱や激しい痛みを伴います。やがて、溜まった膿は、肛門の周辺の皮膚を破り排出されます。すると高熱や激しい痛みの症状は治まりますが、膿が作ったトンネルは自然治癒で塞がることはありません。この状態が痔ろうです。
治療には手術しかありませんが、膿の道が余りに複雑化すると手術も難しいものになってきますので、放置せず、はやめに治療するようにしましょう。
肛門周囲膿瘍と痔ろう(あな痔)の主な症状
肛門陰窩から炎症をおこし、化膿して膿が溜まっている状態が肛門周囲膿瘍です。この段階では、炎症が激しく化膿による膿がお尻の組織を圧迫するなどで、高熱、ずきずきと脈うつような激しい痛みなどが主な症状となります。その痛みや腫れは、時に座っていられないほどであったり、排便や排尿困難な状態になったりすることもあります。
この段階で切開して排膿するか、膿が出口を作って痔ろうになって膿が排出されると、こうした激しい症状は治まり、炎症は消えていきます。
化膿による膿がついに皮膚を破って排出されると、その通り道であったトンネルは自然に塞がることはなく、痔ろうになります。この状態では、体液や時に便などもトンネルの出口から排出され、下着の汚れ、かゆみ、かぶれなどをおこしやすくなっています。下痢などを繰り返したり、シャワー式のトイレで強く洗い過ぎたりすることで、再発を繰り返すと、だんだんトンネルは複雑に分岐したり、肛門周辺の2つの括約筋を破って肛門挙筋まで達したりして、肛門機能にダメージを与えることもあります。さらに稀にですががん化することもありますので早めに治療が大切です。痔ろうの治療は手術療法のみになります。
痔ろうの手術
痔ろうを繰り返し再発させてしまうと、膿が通ったトンネルが複雑に分岐していくことがあります。また、だんだん深部までトンネルが到達し、内肛門括約筋や外肛門括約筋を障害してしまうと、肛門機能もダメージを受けて、きちんと肛門を締めることができなくなってしまい、便漏れや臭い漏れをおこすこともあり、生活の質(QOL)が大幅に低下してしまいます。
そのため、できる限り、トンネルが1本できた単純痔ろうの段階で、きちんと手術をして治してしまうことが大切です。
手術の際には、たとえ単純痔ろうであっても、トンネルがどのような場所を通っているかを正確に把握して、肛門が変形したり、周囲の神経や筋肉などを傷つけて肛門機能を損なってしまったりといったことがないよう、細心の注意と正確さで行う必要があります。
当院でも、痔ろうの状態を正確に把握し、単純痔ろうであれば、当院での日帰り手術を行い、また複雑痔ろうの場合は、提携する医療機関をご紹介し、適切な治療をスムーズに進められるようにしております。
瘻管切開開放術(lay open法)
膿の通った跡の管状のトンネルを瘻管と言います。瘻管切開開放術では、瘻管を皮膚にできた出口から肛門陰窩側の入口までを切開して、肛門管内の創縁を縫合固定して開いたままにしておく術式です。この方法は、肛門後方部に浅くできた、肛門括約筋を切開しても肛門機能に影響がない痔ろうに適用するもので、再発率が1~2%と非常に高い根治率を誇っています。
括約筋温存術(くり抜き法)
括約筋を損傷することがないように、チューブ状になっている瘻管を剥離してくりぬいて除去します。その上で肛門陰窩側の入口を縫合し閉じておきます。皮膚側の出口は開放して自然治癒を待ちます。この手術は、再発率が高いのが難点ですが肛門機能を損傷する恐れはありません。
瘻管切開開放術+括約筋温存術(くり抜き法)
括約筋より外側の皮膚部分はくりぬき法を使い、瘻管を除去します。括約筋部分は切開開放術のような方法で、切り開いた後、肛門管内の創縁を縫合固定する方法です。比較的多くの症例に適用できる術式で、当院でも日帰り手術で対応しています。
シートン法
痔ろうは、肛門陰窩の化膿から始まり、その部分に膿の入口(原発口)ができて、膿が組織内を進んでいき、最終的には皮膚を破って出口を作ります。シートン法では、この原発口から少しずつ、医療用の輪ゴムや糸などで縛って、その部分を切開するということを、時間をかけて繰り返していきます。切開がすんだ部分は治癒していき、またその次の部分を縛って切開するという繰り返しを、2週間に1度の間隔で行い、最終的に二次口に到達するまで、数か月かけてゆっくりと治療します。
この方法は肛門の変形を最小限に抑えることができますが、縛った部分に痛みが出たり、何ヶ月間も肛門に輪ゴムを留置する必要があります。
手術費用について
以下はあくまで3割負担の方の目安としてお考えください。正確な金額については、受診時にお訊ねください。
症例 | 自己負担額3割 |
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単純痔ろう | 約20,000円 |
複雑痔ろう | 約30,000円 |