ヘリコバクター・ピロリ菌について
ピロリ菌は、正式にはヘリコバクター・ピロリと言う名称です。体長が0.004mm程度と非常に小さな細菌で、実際に電子顕微鏡などで見ると、数本の鞭毛(べんもう)があって本体はらせん状にカーブしています。
最大の特徴は、通常生物の生存できない強酸性の胃の中で生きていく仕組みをもっていることです。ピロリ菌が持っているウレアーゼという酵素が、胃酸に含まれる尿素を分解して、アンモニアを作り出し、自分の周辺を中和して生息しているのです。
以前は、不衛生な環境で井戸水や湧き水を飲むことで感染すると考えられていましたが、現在は衛生環境が整ったため、親から子への経口感染(赤ちゃんのときに、口から口へと食べさせたりすることによる)がほとんどです。感染すると、その後除菌するまでは自然に駆除されることなく生き続けます。
ピロリ菌が引き起こす病気
ピロリ菌は、自らが生きるためにアンモニアをつくり、周辺にバリアをはります。このアンモニアや、ピロリ菌に対する防御反応などで、胃壁が常に炎症をおこした状態になります。胃炎が慢性化することによって、胃や十二指腸の粘膜は徐々に傷つけられ、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどの様々な疾患が生じてきます。
また近年注目されているのは、胃にできる悪性リンパ腫の4割を占めるという胃MALTリンパ腫の9割はピロリ菌が原因とされていることです。
さらに、罹患者が増えている機能性ディスペプシアは、ピロリ菌除菌によって症状が改善したという報告があります。
その他消化管以外の疾患として、特発性血小板減少性紫斑病という血液の病気でも、ピロリ菌に感染している患者様の場合、除菌によって症状が改善していくという報告もあります。
ピロリ菌の検査方法
胃カメラ検査で、胃の組織を採取して病理検査などを行う方法と、血液検査や尿素呼気試験などで判定する胃カメラの不要な検査に分類できます。 ただし、医師による慢性胃炎などの診断がない場合、健康保険が適用とならない自由診療となりますので、健康保険でピロリ菌検査をしたい場合には、事前に胃カメラによる検査を受けておく必要があります。
胃カメラ検査を使用する方法
迅速ウレアーゼ試験
リトマス試験紙のような仕組みの検査薬によって、ピロリ菌が生成したアンモニアによる胃酸の中和がみられるかどうかを確認する方法です。その名の通り、スピーディに検査できる方法ですが、検査薬の色調変化などに主観の余地があり、検査結果に差がでる可能性を否定できないため、他の検査と併用が望ましいとされています。当院では初回の検査では血液検査を推奨しています。
検鏡法(病理検査)
胃カメラを使って採取した組織に特殊な染色を施して、顕微鏡で観察する方法です。胃カメラ検査を使用しない方法
抗体検査法
血液検査や尿検査によって、ピロリ菌感染によってできる抗体が存在するかどうかを確認する方法です。簡単にできて、患者様の身体的負担も少ない検査ですが、現在ピロリ菌感染がなくても、過去に感染していたケースでも陽性になりますので、注意が必要です。
尿素呼気試験
ピロリ菌はウレアーゼによって、胃の中にある尿素からアンモニアを生成しますが、その時同時に二酸化炭素も生成します。この二酸化炭素は、すぐに身体に吸収され、肺から呼気に混ざって排出されるという性質をもっています。ところで、炭素には4種類の同位元素があります。そのうち、一般の大気中に一番多く含まれているのが12Cというもので約99%、次に13Cが1%程度含まれています。 この性質を利用して、13C(炭素の同位元素の1種で人体には影響のないものです)でマークをつけた特殊な尿素の検査薬を患者様に服用してもらい、服用の前と後で呼気に含まれる13Cの量の変化を確認する方法がこの尿素呼気検査法です。 この検査を希望される場合、食事制限やPPIなど一部の薬品の服用制限などがあります。また健康保険制度の関係で、胃カメラ検査とは同時に行うことができません。そのため胃カメラ検査は別途行う必要があります。
糞便中抗原検査
検便によって、便中にピロリ菌の抗原があるかどうかを確認する方法です。検査薬を用いると、ピロリ菌の抗原があれば、酵素反応で発色しますので、感染の有無がわかります。除菌判定の際によく用いられる方法です。
ピロリ菌感染の除菌療法
以前は、ピロリ菌の除菌治療は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、初期の胃がんなどに罹患していなければ、健康保険適用とならなかったのですが、2013年に保険制度が改定され、慢性胃炎も保険適用対象となりました。そのため、ピロリ菌に感染し慢性胃炎のある方すべてが健康保険適用による除菌治療を受けられるようになりました。 ピロリ菌を除菌することによって、ピロリ菌によって引き起こされる胃潰瘍や十二指腸潰瘍の発生率は大幅に減少することが知られています。また、ピロリ菌が原因でできるとされる、胃過形成性ポリープも小さくなって消えていきます。さらに胃がんによって胃の一部を切除した後に、再度できる胃がんの発症率も有意に下がることが知られていますので、もし、ピロリ菌感染が判明した場合は速やかに治療を受けることをお勧めします。 具体的な除菌治療としては、胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)とアモキシシリンとクラリスロマイシンという2種類の抗菌薬を、1日2回、1週間続けて服用します。 服用完了後、2か月以上あけて除菌判定を行い、除菌に成功していれば治療完了、失敗の場合は二次除菌へとすすみますが、2次除菌ではクラリスロマイシンを少し強いメトロニダゾールに変更して同様に1週間服用します。近年開発されたボノプラザンという新しいメカニズムで働くPPIによって、一次除菌、二次除菌ともに90%程度の除菌成功率を得られるようになりましたので、これでほとんどのケースで除菌は成功しますが、稀なケースで除菌失敗となった時には三次除菌へと進みます。ただし、三次除菌以降は健康保険の適用がない自由診療となります。
除菌治療の流れ
1薬剤の服用
ピロリ菌除菌キットとして、胃酸抑制のためのプロトンポンプ阻害薬(PPI)と2種類に抗菌薬がセットになったものを、1日2回服用することを1週間続けます。除菌治療中は胃粘膜に刺激を与えないよう、禁酒・禁煙を守っていただき、規則正しい生活を心がけることで、除菌の成功率が高まります。
この除菌キットの副作用としては、味覚障害、下痢、蕁麻疹、肝機能症状などの可能性があります。また、全身にさまざまなアレルギー症状が出るアナフィラキシーなどの徴候がある場合は、すぐに服用を中止し、当院までご連絡ください。
2除菌効果判定
一次除菌で1週間の服薬が完了した後、除菌判定が可能になるのは8週間以降になります。そのため、2か月以上を開けて除菌が成功したかどうかの検査を行います。尿素呼気試験や糞便中抗原検査で判定しています。
32回目の除菌治療
一次除菌に失敗した場合、ご希望によって二次除菌治療に進みます。二次除菌治療も健康保険が適用になります。一次除菌失敗の可能性は、2つの抗菌薬のうち、抗生剤のクラリスロマイシンへの耐性菌の存在が報告されていますので、これをメトロニダゾールという抗菌薬に変更したものを一次除菌と同様の方法で服用します。
42回目の除菌効果判定
服用完了後2か月以上開けて、除菌判定の検査を行います。当院では一次除菌の際と同様、尿素呼気試験や糞便中抗原検査で除菌の成否を判定しています。
この二次除菌までで、除菌成功率は97~8%とほとんどの例で成功します。ただし稀に二次除菌も失敗した場合は、三次除菌へと進みますが、この場合は保険適用外の自由診療となります。